第88回旺玄展入選作品として東京都美術館に展示された作品です。
テーマが「火」ということでしたので、自分なり想像を膨らませてみました。タイトルである「原像」は、火にまつわる原風景の意味が込められています。はるか太古の昔、人間が初めて夜の暗闇を火を以てして明るく照らした瞬間、その人の見た景色がどんなものであったのか、全く想像はできません。しかし彼が意図して夜を照らしたということは、その行為の前に、結果の予測という行程があったはずです。それよりも前に当然、自然現象の経験のうちに炎が夜闇に浮かぶのを見たことがあったでしょう。にもかかわらず、自ら企図して明かりを照らすときは、様々な感情、たとえば期待、暖かさへの期待、恐怖からの解放の期待、といったような心の動きが介入し、明るい夜という既成のイメージはその瞬間に過去のものとなって、新たな夜のイメージが形成されるのです。固定観念が覆る瞬間が、どれほど鮮烈な体験であるのか、我々現代人でも容易に想像がつきます。「原像」は、人間が新たな歴史へ踏み出した瞬間の、生涯彼の心に残ったであろう心象景色としての夜を、私個人の完全な空想によって再現したものです。
アクリル板の裏面に白インクを抜いたUVプリントを施し、金色の画用紙を敷いて透過させることで、鮮やかな発色をつくりました。