地魄

コンセプト

　松村和紀は大阪市に生まれた。日本画家である母の叔父が描いた掛け軸と、団体展に所属し油絵を描く父の姿を見ながら幼少期を過ごす。いつしか絵画を好んで描くようになり、高等学校美術科を経て美術大学油絵専修を卒業。1985年にはフランス、スペイン、ポルトガルを巡り西洋絵画の風土と作品に直に触れる機会を得た。その後「幽境」をテーマに、幻想的な心象風景を描くに至る。枯木の立つ荒蕪地と石塊の浮かぶ昏明の宇宙空間が登場するのはこれ以降に見られる顕著な傾向である。このモティフがしばらく続いた後に、小さな花が作品の宙に現れる。〈花〉は以前からよく描かれているが、その頻度を増したのは先の大震災以降である。そこには救いや希望の意味合いがあろう。そして、今に続く〈花〉が主役を占めるようになる。松村の作品は、石塊や枯木、花、月を素材に、時空間を構成していく。無音の無重力世界に明確なフォルムとリアリティを登場させて、時に逆転する錯視を孕みながら、幽境に咲く世界に斬り込んでいく……。