ピンクという色に女性が惹かれる理由として、「狩猟採集時代の記憶」という文章をどこかで読んだことがある。主に採集を担っていた女性は緑の木々の中に花や果実を血眼で探し出し、自分や家族を養っていた。「ピンクはその花や果実の色である」という説だ。その遠い記憶が私にこの色を選ばせたのだろうか。
そしてピンクとは果実の色であるとともに皮膚、肉、内臓の色でもある。日々この色と向き合っていく中で否応もなく「身体」やその「温度」を意識するようになった。暖かいヒダや脈打つ陰影。ミクロにもマクロにも伸び縮みしながら、包み込んだり解放したり。「生命の色」に圧倒され翻弄されながらもその魅力に吸い寄せられる体験は苦しくて、そして実に刺激的だ。
長年取り組んできた抽象という舞台上でこの色が与えてくれる様々なイメージや体験をより豊かに形にしながら、絵画ならではの空間を作っていきたい。