Radiator #2

コンセプト

二つのヴィジョン

　吉川智章は制作に使用したマスキングテープを再配置する。マスキングテープは絵画の一部である。しかし、それが取り除くことができる仮設物として絵画表面を侵犯しているとみることも可能である。塗料の筆遣いのあるマスキングテープは表現的な表象を現出させる。それは襞を伴って屈曲する。あるときは接合した２本のテープが新たな筆遣いを生成する。それは絵画のフラットな表面に対する不定形の反乱であり、衝動的な即興である。塗装面を分離し移動させるという単純な制作方法は現代における生産システムの表象である。絵画は生産物とその残滓による構成物となる。「生産物」は合理的で規格化された社会を象徴する「冷たい抽象」として表現される。そして「残滓」は感情的な筆遣いの「熱い抽象」として表現される。吉川の絵画においては一つの制作システムからの二つの対照的なヴィジョンの生成が実践される。それこそが彼の作品の特筆すべき点である。二つのヴィジョンが相関関係にあること、そして「残滓」の衝動的な即興の重要性を作品において作者は表明しているのである。