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【INTERVIEW】現代を映す工芸の実践:井上魁

2024/04/22
TRiCERA ART TRiCERA ART

鮮烈なレッドで”LOVE”という文字が立体化された陶芸作品、《LOVE-2401》。


《LOVE-2401》(2024)

100人10 2023/2024に入選した本作は、審査時から注目され、最も多くの票を得た作品です。陶芸とストリートアートの融合や、グラフィティの疾走感ある筆致の表現が高く評価されました。

9s Galleryでは、井上魁をはじめとした100人10で注目を集めた新進気鋭のアーティスト5名のグループ展“UPDRAFT” Rising Artists from 100人10 2023/24を2024年5月18日(土)~6月1日(土) にかけて開催します。

本記事では、一瞬の動きを陶に落とし込み、時代を映した新しい工芸の形を追求するアーティスト、井上魁の制作に迫るインタビューを公開いたします。



2024年、多摩美術大学大学院 工芸専攻領域を修了。
陶という素材をもって、グラフィティやダンスなどのストリートカルチャーが持つ身体的なエネルギーや刹那的な衝動を造形として表出させる試みを行っている。また、陶芸の技法や釉薬などを積層させることで、ストリートカルチャーが持つレイヤーの重なりや時間の流れを表現している。

主な展覧会に、多摩美術大学工芸学科卒業制作展「ほてり」(スパイラルガーデン、東京、2022)、「Dーart.ART」(松坂屋名古屋店、愛知、2022)、「Art in Tokyo YNK」(東京ガーデンスクエア、2022)、「pipirohiro 1stcollection bomb!」(渋谷PARCO、東京、2022)、 「ALBUM」」(デザインフェスタギャラリー原宿、東京、2021)、「工芸学科四年有志展 十人十工」(gallery元町、神奈川、2021)など。

刹那を残す手段としての陶芸


《HAPPY-2401》

-まずは井上さんが制作されている作品について教えてください。

陶という素材で、その場限りの瞬間的な身体表現やパッションを表現する作品を作っています。

学生時代からダンスやヒップホップを続けていたため、ストリートカルチャーにずっと触れてきました。その中で、直接手で粘土をこねる陶芸ならば、その場限りの体の動きを陶器としてずっと残すことができると気づき、現在の制作スタイルを取っています。


-井上さんが陶芸を始められたきっかけはなんですか?

出身地が砥部焼という陶芸の産地に近くて、なんとなく小さな頃から馴染みがあったというのが理由のひとつです。高校ではデザイン科を専攻していたのですが、授業の一環で陶芸のワークショップがあって。その時、陶土という素材が自分に合っているなと感じて、美大では陶芸専攻を選択しました。


《ASSURE-2405》

-井上さんにとって、他の工芸技法やいわゆるファインアート的な彫刻と、陶芸との違いは何ですか?

まずは、直接素材を手で触って形作っていく点でしょうか。絵の具なら筆、木彫なら鑿というように、他の技法だと、意外と素材を直接触ることって少ないんです。

でも、陶芸では自分の手で粘土をこねて形を作る。だから他の技法よりも自分の手ぐせみたいなものが如実に出てくるし、その場限りの瞬間的な感情を造形に落とし込みやすい点が陶芸の特徴だと思っています。

もう1点は、そうして形作った陶土を焼成することで、非常に長い間残る作品を生み出せる点です。特に縄文土器なんて、1万年以上前の器が土に埋まって現代まで伝わっているじゃないですか。誰かが大事にケースにしまっておいたわけでもなく、わざわざ何らかの「枠」に入れなくても残り続ける、という点もストリートカルチャーと通じるものがあって惹かれます。

同時に、陶土という素材を使いこなす技術で高みを目指すというよりも、完成した作品に対して鑑賞者が形成していく評価を大切にしたいという思いもあって。工芸の世界では前者にフォーカスする傾向が強いんですが、自分は自身の感情を長く残すメディウムとして陶芸を選んでいます。


出品作品について


《LAUGH-2401》

-今回のグループ展に出品いただく作品は、100人10と同様に”Love”や”Happy”などある言葉をモチーフにしたシリーズ5点です。このシリーズはいつごろから制作されていますか?

2年前、大学院に入学してからですね。

学部生の頃は、陶土を板状にしたものにキャラクターを描いていました。グラフィティでよく描かれるようなキャラを陶芸で表現する試みだったのですが、制作する中で、より陶土という素材を活かす方向性を考えたくなって。

そこで、「焼成することで長く残せる」という側面に注目して、ポジティヴな言葉をモチーフに選びました。文字はグラフィティにおいてメインのモチーフでもあるので。

現代社会では、あらゆる流行やライフスタイルがどんどん消費されていくじゃないですか。SNSのタイムラインもネガティブな言葉が次々に流れる上に、一度広がった中傷はデジタルタトゥーとして残り続ける。そんな時代へのアンチテーゼも込めて、あえて1つのポジティヴな言葉を、質量ある「モノ」としてずっと残そうと考えています。

このシリーズで一番最初に作ったのは”LOVE”です。その後も何作か制作していて、100人10にも、今回の展示にも1つずつ出品しています。自分のベースになる作品ですし、愛はたくさんあったほうがいいので。


《LOVE-2308》

-作品によってカラーが異なるのも印象的です。

言葉ごとに様々なイメージを投影したカラーを決めています。レッドの”LOVE”のように、ある程度一般的な印象のカラーを使うこともあれば、自分が好きな特撮やカートゥーンなどのキャラのカラーを参考にするというような、かなり個人的な体験を通じて決めることもあります。鑑賞者が作品を見て何かを想起する際のフックとなるように意識して選んでいますね。

また、自分の作品では、陶土に彩泥(顔料を混ぜた泥)を塗って、焼成することで彩色しています。焼成はほぼ一回ですが、何層か彩泥を重ねたり、焼成時に溶け出すような金属製の顔料を使用して、重層的なカラーを出しています。こうした色の堆積も、様々な流行が過ぎ去っていく現代の様相を示す表現のひとつです。


ある時代の工芸を体現する存在になりたい


《ALTER-2405》

-今後、どのような作品を制作しようと考えられていますか?

今の時代を映す作品を制作し続けたいと考えているので、今回出品するようなシリーズ作品はある程度続けていく予定です。作品タイトルの末尾に、制作した年月を示す4桁の数字をつけているのですが、これも各作品が表現している時代性を意識させるためなんですよ。

一方で、この世界には1単語だけでは表現できない複雑さももちろん存在するので、さらなる表現やモチーフは模索していきます。

最終的には、自分が作り上げてきた作品群が、今の時代の工芸である種ベーシックなものになることを目指したいです。

開催概要

https://www.tricera.net/ja/artclip/blog975
“UPDRAFT” Rising Artist from 100人10 2023/24
開催日程:2024/5/18(土)から 2024/6/1(土)
営業時間: 12:00 〜 19:00
※ オープニングパーティー(招待制):5/17(金)
※ 最終日 18:00 CLOSE
※ 休館日:日曜日、月曜日

会場:9s Gallery by TRiCERA
〒106-0031 東京都港区西麻布4-2-4 The Wall 3F
アクセス:東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩10分・広尾駅 徒歩10分
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩10分
連絡先:​​03-5422-8370

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本展に関するお問い合わせはこちら





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著者

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現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net