本作は「Layers of Color」シリーズ、2019年制作の9作目、シリーズ全体の44作目にあたります。
アクリル絵具の積層と研削という手法とそこから生まれる発色・マチエールは藤本の全作品に共通する特徴ですが、対象物(モチーフ)の 構造から解き放たれた、純粋な視覚現象のような絵画を追求しているところが本シリーズの特徴です。
本作の狙いはズバリ「赤い絵画」です。
具象・非具象問わず「赤」という色は、独特の官能性・訴求力がありますが、その色をメインにしてこのシリーズならではのフリーな現象を絵画化しています。
本作では「1613」「1614」「1615]で導入したような、デフォルト画面は使わずに最初のレイヤーからフリーで即興的なタッチを重ねていっています。いつも通り重ね終わったレイヤーを削っていきましたが、その途中でもう一度、数レイヤーを重ね、それをまた削ることで完成しました。
このように「塗り→削り」というタームを複数回数繰り返すことで完成へと至る場合もあり、本作はその一例です。
キャンバスを表裏ともに丁寧に整えた後、画面側の部分に、20層以上の塗りを施します。そして、水を注ぎながら、耐水性のあるサンドペーパーで削りながら画面を制作していきます。
仮設の板の上で制作し、完成後は洗浄して乾燥させた後、木枠に張るので長期保存における衛生面でも問題はないです。画面は削りによって滑らかで、布で拭けばきれいになります。
ペインティングの特徴のひとつである「重層的なマジック」を利用して、支持体の上にのみ存在するスペクタクルを実現する。物理的な結晶としての絵画。
1999年以来「アクリル絵の具の積層と研磨」という一貫した技法とマチエールで 絵画の可能性を追求しています。