2015年から始めた「Layers of Color」シリーズからは、具象的なモチーフの構造から解放されたところで、純粋視覚現象のような絵画を追求しています。
本作品は、2019年に入ってからの第8作、同シリーズ通算第41作です。
本作の特徴は、「デフォルト画面」という初期レイヤーをまず描き重ねて、その画面から触発されるようにいつものスポンテニアスな、塗り、削り、画面決定をしたことです。
「デフォルト画面」とは、本シリーズの比較的大きめの作品に導入する手法です。
塗り工程の最初から、ただフリーに筆を運んでレイヤーを重ねるのではなく、何かしらのソース画像を元にした描画をある程度の厚みで仕込んでおくものです。その後に「デフォルト画面」に触発されながら、部分・全面にフリーなタッチのレイヤーを重ねていきます。そうして出来上がった分厚いレイヤーを削り出していくことで、最終的に現象的な強度と絵画的な豊かさが共存した画面を見つけることができます。
この作品の「デフォルト画面」は、同年の初めの頃に制作した小品「1903」の画像をキャンバスにプロジェクション、即興的な判断でトレース、変化させたモノクロ線画を元にしています。その線画に沿ってアクリル絵具で描写し、ランダムな厚みを持たせてあります。
「デフォルト画面」が、通常の「デッサン」と違うのは、「その通りに進めることが目的ではない」ことです。
微妙な厚みが「単なる自分の手癖」を超えて画面に分布し、そのレイヤー構造が発火点になって、最終的な画面の強度、密度をあげるために機能しています。
2016年のシリーズ作品「1613」で初めてこの手法を導入。効果を確認できたので、久しぶりの大きな作品である本作「1908」でも導入したというわけです。
キャンバスは表裏両面に入念な地塗りによるプレパレーションの後、画面側に部分、ベタ合わせて20層以上の描写としての塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削していきながら画面を造っていきます。
仮板の上で制作し、完成後は、清掃して乾燥させてから木枠に張るので、制作上、衛生上にも支障なく、マチエール特性や発色のクオリティもキープできていると思います。
画面は、削り出しているため平滑で、ふきんなどで拭き掃除もできます。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
その支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。物理的な結晶としての絵画。
制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。
以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。