本作は「水に杭」シリーズの第28作です。2006年には、東京・上野の森美術館で開催されたセレクション・グループ展「VOCA(Visions Of Contemporary Art)」展に出品されました。VOCA展は1994年に始まり、日本国内で活動する若手アーティストの選抜展です。全国の関係者から推薦されたアーティストが、毎年1回作品を出品し、上野の森美術館で展示されます。「水に杭」シリーズは色面と杭だけのシンプルなスタイルなので、色使いや構図でいろんなバリエーションを楽しみながらチャレンジしていきました。本作はダークグリーン基調の色調で、落ち着いた雰囲気が特徴です。この色調は、シリーズ「水に杭 17」で初めて用いた色使いとレイヤー構成で、私自身とても新鮮な感触があり展覧会でも好リアクションでした。以降も「自分らしいパレット」の1つとして他の作品でも用いることがあり、本作もVOCA展に出品できる機会に大きな作品としてチャレンジしました。制作の流れとしては、日本画の大下図のように、杭などモチーフの配置を主に記した原寸大の線画を、画面と別のトレーシングペーパーに作成します。そして塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングします。線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し、本画制作に入ります。使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。画面では、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上、描写として塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削を、完成画面が見つかるまで繰り返します。作品裏面のスリットはパネル内通気ダクトですが、設置の際、ピン、フック類も引っ掛けられます。また、削り出しによる平滑なマチエールなので、作品をふきん等で拭き掃除することもできます。アクリル絵具の積層と研削で、絵面を描き出していく技法とマチエール)は、非対象フリー絵画「Layers of Color」と変わらないので、本シリーズの作品においても、そのマチエールや発色感は一貫しています。絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かして、支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景を造る。制作を志した頃からの私の欲求に沿ったやり方「レイヤリング」1999年に見つけました。以降、この「レイヤリング」でペインティングの可能性を追求しています。