
9s Galleryでは、2025年2月14日(金)から 2025年2月22日(土)まで蟷螂子個展「 KAIJU-目醒め- 」を開催いたします。
鋭利な背びれを持ち、鋭い眼差しで見つめる女性。黒一色で描かれた姿は、特撮映画の金字塔「ゴジラ」を想起させる新作"KAIJU"シリーズ。2024年10月のART TAIPEIでお披露目された本シリーズは、2025年2月の個展『KAIJU -目醒め-』で本格的な展開を迎えます。
本記事では、個展「KAIJU -目醒め-」を中心にしたインタビューを公開いたします。
「美人画の再構築」に挑むアーティスト、蟷螂子 (カマキリコ)。
釜山・台北・ドバイでの海外アートフェアや、Art Fair Tokyo 2023に出展するなど、高い注目を集める急成長中のアーティスト。
さらに、2023年8月には、GINZA SIX・アールグロリューでのグループ展「SIGNS OF A NEW CULTURE」で草間彌生やKYNEらビッグネームとも共演。
同月TRiCERAで実施した個展「Do girls dream of Electric City?」では出品作7点、2024年1月開催の「27」展では9点、2024年8月開催の「Kiriko gram - #StillTheResistance」展では15点がそれぞれ完売した。
2024年2月に行われた「100人10」出展時には出展作品に151件もの購入申込が入るなど、現代アート界からの期待も増している。
”KAIJU”を描く理由
—今回の展示タイトル「KAIJU -目醒め-」に込められた意味を教えてください。
「”KAIJU”は、都市の人々が抱く不安や閉塞感に対するフラストレーションが具現化した存在として、女性と都市とが融合した姿を描いた新作シリーズです。”City”では、巨大な都市の中で生きる個々の人間の美しさを表現しましたが、今回は都市という集合体としての存在を描いています」
「シリーズの初めての作品は、実は昨年10月のアート台北で"KAIJU #1"として発表しています。ですが、当時はまだ作品で描きたいことを完全には掴めていませんでした。ただ形にしたいという衝動だけで作り上げた段階だったんです」

KAIJU #1 (ART TAIPEI2024出品作 *「KAIJU 目醒め」展では出品予定なし)
「その後、時間をかけて制作を続ける中で、過去のカルチャーや文脈から自分に繋げて、この先について何を語れるかという視点を持ち始めました。そういう意味で、この個展が”KAIJU”シリーズ、そして私自身の『目醒め』ということでタイトルにしました」
これまでの展示では事前に綿密なコンセプトを練り上げてから制作に臨むことが多かった蟷螂子だが、"KAIJU"シリーズは異なるアプローチで生まれたという。
「”KAIJU”は、何を描きたいのか分からないまま、整っていない状況から作品を作り上げること自体が、このシリーズの重要な部分を担っていると思っていて。実際、描いているうちに、別の何かが立ち上がっていって、アーティストである自分自身がそれを追いかけていくような、不思議な感覚がありました」

KAIJU #4
—作品のインスピレーション源について聞かせてください。
「ステートメントでも書いていますが、特撮映画の『ゴジラ』です。実は最初はタイトルに『ゴジラ』を使おうと考えていたほど、私にとって強い意味を持つ存在なんです。私の幼少期は、ゴジラと他の怪獣が戦う『平成VSシリーズ』と呼ばれるゴジラ映画の全盛期で、夏休みの度に映画館に通っていました。その時のゴジラは、アニメやコミックス、ウルトラマンなどの特撮作品の中でも、とても特異な存在でした」
正義か悪か、その二元論では捉えきれない存在としてのゴジラ。それは蟷螂子の心に強く残ることとなる。
「みんなが憎んでいるのに、最後なぜか地球を救って消えていく。正義しか知らなかった少年時代の私にとって、ゴジラは少し意味のわからない存在でした。それがずっと心に残っていて、大人になっていろんなことを知っていく中で、本当の正義とか本当の悪というのは表裏一体で、正義だと思っていたものが実は裏では違う面を持っているということを理解していきました。
人間というのはろくでもないけれど、それでもなんか捨てたものじゃないような……人間の本性をどこかで諦めているようで、なんか信じているような、そういう立ち位置にゴジラが近かったんです。今回の”KAIJU”も、人の不安や恐怖から生まれているけれど、「現状を打破したい」という希望や祈りも併せ持った存在として描いています。」
4つのシリーズが織りなす世界
—個展では"KAIJU"シリーズと共に、"City"、"KAIKA"、"SAITA"の各シリーズも展示されます。それぞれのシリーズの関係性について教えてください。
「"City"シリーズの新作『In Tokyo』では、銀座・和光ビルや霞ヶ関など、初代ゴジラが暴れたシーンで有名な場所を背景に選んでいます。霞ヶ関は政治の中心を象徴する場所で、和光ビルは市井の人々が様々なものを求める消費の場。それぞれが人間社会を描く上で重要な場所です。"KAIJU"を人々の不安の象徴として描く上で、怪獣が私たちの日常と地続きであることを示したかったんです」

In Tokyo #15
興味深いのは、各シリーズで描かれる女性の顔が意図的に似通っている点だ。
「あえて同じ顔の人物を登場させています。"City"に登場する都市で生きる人々が"KAIJU"となり、また"KAIKA"や"SAITA"の女性たちとも繋がっている。すべてが人間そのものや人間が生み出したものの表現なんです」

In Tokyo #16
善悪渾然一体となった人間を描く表現
—作品では人物と背景、あるいは人物とモチーフの境界が曖昧に描かれている印象を受けます。
「正義でも悪でもない曖昧さ、そして恐怖と祈りが介在する部分を表現しています。例えば"KAIKA #15"では、女性の体と枝を渾然一体となった黒いシルエットで表現しました。どこからどこまでが何なのか、あえてわからないような部分を作っている。見る人によって異なる解釈ができる余白を残したかったんです」
この曖昧さへのこだわりは、蟷螂子作品の重要な特徴となっている。
「私の作品はよくイラストアートやコミックの文脈で語られることが多いのですが、そことは一線を画したいと考えています。漫画はページを開いた瞬間に、ポーズや意味を明確に説明しなければいけない媒体です。でも絵画は違う。見る人が見たいように解釈できる。そのストーリーは見る人の数だけある。そこが決定的な違いなんです」

KAIKA #15
作品制作における技法的な挑戦も、この表現を支えている重要な要素だ。
「レイヤーという観点でも、背景と人物という区分けを崩したかったんです。実際に今回の作品を見ていただくとわかりますが、背景の方が人物より盛り上がっている部分があります。これは漫画やアニメでは決してありえない表現です。必ず人物が前にいて、後ろに背景があるというレイヤーになっている。その常識を覆すことで、新しい表現を模索できればなと」
—今後、"KAIJU"シリーズはどのように展開していく予定でしょうか?
「正直なところ、今も手探りの状態です。このシリーズは自分でもコントロールできない部分を含んでいますから、これからどう展開していくのかは私にもわかりません。ただ、事前にテーマを固めて描く"City"や"SAITA"シリーズと、わからないまま描く"KAIJU"とを並行して制作することは、私にとってある意味でバランスの取れた制作スタイルでした。しばらくはこの形で続けていこうと思います」
—最後に、個展に来場される方へメッセージをお願いします。
「今回は特に、実物を見て伝わる迫力を追求して制作しました。例えば"KAIJU #4"の背景は、写真では伝わらないほど激しく盛り上がっています。黒地の上に赤を重ねることで、色の重なりや奥行きを表現しました。赤が薄いところでは地の黒が微妙に露出していて、独特の質感を生み出しています」
前回の個展『Kiriko gram - #StillTheResistance』では社会問題と接続させた作品を制作した蟷螂子だが、今回はより個人的な表現に踏み込んだという。
「今回は自分自身のどろどろした部分をそのままぶつけたような制作ができました。上辺で共感を取りに行くのではなく、自分の内面を掘り下げていった結果、人間の普遍的な何かに行き当たったように思います。それが"KAIJU"という表現になった。来場された方の中にも何か響くものがあれば嬉しいです」
展示作品は全点抽選販売
今回の個展で展示する新作は全点抽選販売となります。
2月22日19時まで受付中。
以下の作品リスト内にある作品ページからお申し込みいただけます。
展覧会開催概要
会期:2025/2/14(金)から 2025/2/22(土)
営業時間: 12:00 〜 19:00
休館日:2/17(月)
作家在廊予定日:2/15(土), 2/22(土)
会場:9s Gallery by TRiCERA
〒106-0031 東京都港区西麻布4-2-4 The Wall 3F
アクセス:東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩10分・広尾駅 徒歩10分
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩10分
連絡先:03-5422-8370

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